その日には…【遙か3/弁望】 2010年02月11日 遙かなる時空の中で3 0 2010年BD 迷宮ED後 「その日まで…」の望美さんサイド(注:迷宮愛蔵版ネタバレあり) そわそわな望美さんの真相。 その日には… ――今度こそは…… 少しずつ近づいてくるその日に、望美は、力強く頷いた。 2月もそろそろ終わろうか…という頃、街中は赤やらピンクやらの装飾に溢れ、クラスメイト達も……そわそわとし始めているのが教室の中にいても感じられた。 去年までは、そんな雰囲気はどこ吹く風…と過ごしていた望美だったけれど、今年はそんなわけにもいかない。 教室のあちこちから聞こえてくる女の子たちの話を、聞き耳立ててながらするのはリサーチ。 少なくとも。 今までスルーしてきた「本命チョコ」は、絶対外せない。 買うべきか作るべきか……皆の話を参考にしながら、望美は、学校帰りに店を覗く毎日を過ごしていた。 ――14日は、とにかくチョコだけは準備しとかないと! 気合いは十分。 けれど、問題が一つ。 「どうしよう……」 カレンダーは、気が付けばもう2月。 数字に赤い色のついた日が、ふたつ、ピンク色のハートマークで囲まれている。 ぎゅうとクッションを抱きしめて、望美は溜息を吐いた。 「何がいいのかなぁ…」 『……買った方がいいんじゃねえ?』 『来年までに、もっと練習しましょう……』 幼馴染二人から、しみじみと告げられて手造りのチョコレートは断念せざるを得なかった。 溶かして固めればいいだけの筈なのに、どういうわけかうまくいかない。 それならせめて、絶対に喜んでもらえるものを贈りたい。 贈りたいけれど…… 「う~思い浮かばない~!」 思考回路が、クリスマスの後の時と同じ迷路に入り込んでしまっていた。 相談できる親友は、既に遠い時空の彼方。 だからと言って、クラスの友達に話そうものなら、色々と追求されて相談どころで済まないだろう。 ころん…とベッドに寝転がって眩しい蛍光灯へと手をかざせば、光に輝くブレスレットが目に入った。 クリスマスのお返しを…と思ったのに、また貰ってしまった贈り物。 また、溜息が口を吐いて出てくる。 「今度こそ、絶対、びっくりさせるんだ……」 きっと、バレンタインデーのことは知っているだろう。 けれど、その前に訪れるもう一つの日のことは……知らない。 あの世界には、なかった風習なのだから…… だからせめて、前日までは内緒にしておこう。 何を贈るにしろ、何をするにしろ、それだけは決定事項。 たとえ、準備するために会う時間が減ってしまっても……驚かせるためには絶対大事。 全ての準備は整った。 後は、当日の約束をとりつけるだけ。 望美は、意を決して電話を掛けた。 自分から、約束の電話を掛けるのは初めて。 緊張に震える指でボタンを押すと、数回の呼び出し音の後、ここ数日まともに聞いていなかった大好きな 人の声がした。 「はい」 ――あ…… どきっとした。 折角のお誘いを何度か断ったうえ、ここ数日まともに会ってすらいなかったのだ…… どこか不機嫌な声に、折角入れた気合いが消沈していく気がした。 ――ど、どうしよう…… 「ごめんなさい…」 呟くように、望美は謝罪の言葉を口にした。 他に、何と言えばいいのか……分からない。 「折角、弁慶さんが誘ってくれてたのにずっと断ってて、本当にごめんなさい。」 「望美さん?」 聞こえてきた弁慶の声からは、先程の不機嫌さが少し消えていた。 どこか不思議そうな響きを持った声に名を呼ばれ、望美は大きく深呼吸する。 ――言わなきゃ、ちゃんと。 「あ、あのね、弁慶さん。」 「はい。」 「11日と14日、なにか予定ありますか?」 そう言った途端、弁慶が言葉に詰まったのが分かった。 「………だめ…ですか?」 「あ、いえ。大丈夫です。」 ――よかった…… 一瞬言葉に詰まってしまった弁慶に、不安が過ってしまったけれど…… どうやら、驚いただけだったようだ。 望美は、安堵のため息を吐いた。 「じゃあ、どちらも一日中一緒ですよ!!」 どちらも休日。 どちらも、共に過ごせる初めての日。 とても……大切な、日。 一緒に過ごせることが嬉しくて、自然と笑みがこぼれてくる。 「あの、望美さん。」 「はい。」 ふわふわとした心持ちの望美へと、弁慶の声が不思議そうに問いかけてきて、半分上の空の状態で返事した。 「14日は分かります。でも11日はどうして……?」 「あっ!」 当然と言えば当然の問いに、望美は小さく声を上げた。 ――どうしよう…… ちゃんと理由を言うべきか。 それとも、当日まで黙っているべきか…… 「それは、当日のお楽しみですっ!」 一言だけ答え、それ以上ボロを出してしまわないよう、望美は慌てて電話を切った。 「あ…危ない……」 深く息を吐いて、望美は呻いた。 危うく、当初の予定を見失うところだった。 「絶対、驚かせるんだから!」 机の上には包みが二つ。 一度に渡しはすまい…… それぞれの日に、一つずつ……一生懸命選んだものを、ちゃんと渡すのだ。 きっと驚いて、喜んでくれる筈。 机に頬杖をついて、望美は、へら…としまりのない笑みを浮かべた。 「弁慶さん、お誕生日おめでとう!!」 そう笑顔で告げた望美に弁慶が驚き……そして、驚かせ過ぎたことに彼女が後悔するのは、ほんのしばらく後のお話。 PR