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よみぢのほだし 小説の部屋

火弟巳生が書いた版権二次創作小説の置き場

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コイワズライ【遙か3/弁望】

ゲーム中
神子→弁慶な甘々(?)なお話


コイワズライ



 
 追いかけて、追いかけて。
 届かぬ想いを携えて。
 恋しいと…
 愛しいと…
 全身を蝕むのは、熱病にも似た感情。
 眠れぬほどに募る…想い。
 
 
 
 
 
 昼下がり。
 穏やかに過ぎてゆく時間。
 戦と戦の合間の…ひとときの休息
 
 望美は、色付き始めた庭の木々を視界の端に映しながら歩いていた。
 ただ、真っ直ぐ。
 目的の場所に向かって。
 
 
 何度も辿った時間。
 幾度目かの春に知った、秘密の部屋。
 人の住処とは思えないほどに物の詰まった…場所。
 僅かに戸が開いている。
 微かに、書を繰る音がするから…きっと彼は在室しているのだろう。
 
「弁慶さん」
 ひょい、と顔を覗かせて、望美は遠慮がちに声を掛けた。
「おや、どうかしましたか?」
 手にしていた書物を床に置き、振り返る顔に浮かぶ優しい微笑みが憎らしい。
 足元に散らばる…本人曰く「分かるように置いている」…本の山を避けながら、望美は、弁慶の傍まで寄ってゆく。
 こうやって避けて歩くのも、幾度も巡った時空の中で、いつの間にか身についてしまっていた。
 唯一の、人の座れる部屋の中央付近。
 文字通り膝を付き合わせる距離に、望美は腰を下ろした。
 
「ちょっとお薬貰いたくって…」
 苦笑を浮かべて告げると、眉を顰めた弁慶が、心配げな瞳で望美を見つめた。
「具合でも悪いんですか?」
 問い掛けながら、望美の顔色を診る。
「…その……眠れないって言うか……」
「それはいけませんね」
 薬師の顔になって、額に、首筋に、手首に触れる。
 それが、少し悔しい。
 ただ、熱を…脈を測るだけの、彼の「薬師」の手が、悔しい。
「何か心配事でもあるんですか?」
 そうやって、聞いてくることが憎らしい。
 
 少し考え込み、弁慶は傍らの薬箱に手を伸ばした。
「とりあえず、気持ちを落ち着ける作用のある薬湯を煎じますから、寝る前に飲んで……」
「違うんです。」
 弁慶の言葉を遮り、望美が言葉を発した。
「え?」
 いきなり掴まれた袖。
 視界が翳ったように感じて、弁慶は驚いて振り返った。
 
 視界の端で、さらり…と紫苑の長い髪が零れるのが見えた。
 両頬を包むのは、しっとりと温かな熱。
 至近距離には、閉じられた瞼を彩る長い睫毛。
 今、唇に触れている柔らかなものは……一体……?
 一瞬何が起きたか分からず、弁慶は、目を瞠り呆然とした。
 
 ゆっくりと唇が離れ、瞼の向こうから現れるのは翡翠の瞳。
「薬湯なんていらないです。」
 大人びた笑みを浮かべて、望美が告げた。
「なにを…」
 
 鼓動が跳ねる。
 思考が停止…する。
 今、この少女は何をした?
 
「望美さん?」
「弁慶さんから、おんなじことしてくれたら、きっと治ります。」
 先程、触れて離れていった少女の唇が、言葉を紡ぎだす。
 
 同じこと…ということは、くちづけをしろ…というのか…?
 目の前で微笑む、清らかな少女に?
 この罪を背負った…穢れた身で?
 
「私…弁慶さんのこと考えたら、どきどきして眠れないんです。」
「え……?」
 微笑みながら望美が手を伸ばす。
 両掌で弁慶の手を包み込む。
 
 伝わってくる温もりを、愛しいと思う。
 それは、ずっと想っていた事。
 けれど…許されないと秘していた感情。
 ゆっくり、ゆっくり……
 解かれてゆく…堅く閉ざしたはずの錠。
 
「お医者さん……薬師にも治せないって言うけど……
 弁慶さんなら、きっと治せます。」
 否、弁慶にしか治せない。
「だって私…恋の病に罹ってしまったから……」
 望美はにっこりと微笑むと、自分を蝕む病の名を告げた。
 
 
 

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