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よみぢのほだし 小説の部屋

火弟巳生が書いた版権二次創作小説の置き場

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夏の休息【遙か3/弁望】

夏の熊野
薬草取りに誘われて入り込んだ森の中。ほのぼの。


夏の休息



「薬草を採りに行こうと思うので、手伝っていただけますか?」

 

 本宮へ向かう途中、ふと立ち寄ったのは那智大社。

 皆、しばしの休憩時間を思い思いに過ごしている中、望美は弁慶から声を掛けられた。

 

「え?でも、弁慶さんは休憩しなくていいんですか?」

 

 暑さで参ってしまってはいけない…

 そう言って、九郎に休憩を促したのは、他の誰でもない弁慶だったのだ。

 ほんの短い時間であっても、弁慶と二人きりになれる…というのは嬉しかったが…

 

「ふふっ、この裏の森にある薬草を採りに行く為の口実です。」

 楽しそうに笑いながらの弁慶の言葉に、思わず吹き出してしまう。

「――それと、君と一緒にいるための…ね?」

「か、からかわないで下さい!」

 微笑みながらのいつもどおりの台詞に、胸の内を見透かされたようで…

 望美は、赤くなって抗議の声を上げた。

 

 

 

 

 弁慶と共に、大社の裏にある森へと入っていくと、そこは強い日差しなど無縁…とでもいうほど、ひんやりと涼しい空気に包まれていた。

 

「わ~!何だか、真夏だなんて思えませんね。」

 大きく伸びをして、望美は胸いっぱいにその空気を吸い込んだ。

「でしょう?」

 そんな望美を見ながら、弁慶は優しく微笑む。

「それに…望美さん、そのまま上を見上げてみてください。」

「え?」

 

 言われたとおりに顔を上に向けてみると…

 

「………」

 

「綺麗でしょう?」

「はい……」

 

 木々の葉の間から零れてくる日の光は、つい先程までの照りつけるそれとは、全く別のもののようだった。

 風が吹き抜けてゆくと、葉が揺れて、まるで万華鏡のように日差しが踊る。

 キラキラと零れるそれに、望美は目を細めながら両手をかざした。

 

「立ち寄ったついでに採っておきたい薬草があったのは本当ですが……」

「弁慶さん?」

 望美の手をとり、弁慶はゆっくりと歩を進める。

 繋いだ手を引かれ、戸惑いながらも、望美は後について歩き始めた。

「君と、二人で歩きたかった…というのも本当です。」

 肩越しに振り返り、弁慶はそう言って微笑んだ。

 

「っ!」

 

 

 

 さぁっ…と吹き過ぎていった風に、二人の髪が踊る。

 足を速め、望美は弁慶の隣に並んだ。

 

 

 

 少しくらい遅くなっても、薬草を言い訳にしてしまおう。

 

 だから……

 

 今だけは、ゆっくりと時間が流れてくれますように……

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