夏の休息【遙か3/弁望】 2008年02月18日 遙かなる時空の中で3 0 夏の熊野 薬草取りに誘われて入り込んだ森の中。ほのぼの。 夏の休息 「薬草を採りに行こうと思うので、手伝っていただけますか?」 本宮へ向かう途中、ふと立ち寄ったのは那智大社。 皆、しばしの休憩時間を思い思いに過ごしている中、望美は弁慶から声を掛けられた。 「え?でも、弁慶さんは休憩しなくていいんですか?」 暑さで参ってしまってはいけない… そう言って、九郎に休憩を促したのは、他の誰でもない弁慶だったのだ。 ほんの短い時間であっても、弁慶と二人きりになれる…というのは嬉しかったが… 「ふふっ、この裏の森にある薬草を採りに行く為の口実です。」 楽しそうに笑いながらの弁慶の言葉に、思わず吹き出してしまう。 「――それと、君と一緒にいるための…ね?」 「か、からかわないで下さい!」 微笑みながらのいつもどおりの台詞に、胸の内を見透かされたようで… 望美は、赤くなって抗議の声を上げた。 弁慶と共に、大社の裏にある森へと入っていくと、そこは強い日差しなど無縁…とでもいうほど、ひんやりと涼しい空気に包まれていた。 「わ~!何だか、真夏だなんて思えませんね。」 大きく伸びをして、望美は胸いっぱいにその空気を吸い込んだ。 「でしょう?」 そんな望美を見ながら、弁慶は優しく微笑む。 「それに…望美さん、そのまま上を見上げてみてください。」 「え?」 言われたとおりに顔を上に向けてみると… 「………」 「綺麗でしょう?」 「はい……」 木々の葉の間から零れてくる日の光は、つい先程までの照りつけるそれとは、全く別のもののようだった。 風が吹き抜けてゆくと、葉が揺れて、まるで万華鏡のように日差しが踊る。 キラキラと零れるそれに、望美は目を細めながら両手をかざした。 「立ち寄ったついでに採っておきたい薬草があったのは本当ですが……」 「弁慶さん?」 望美の手をとり、弁慶はゆっくりと歩を進める。 繋いだ手を引かれ、戸惑いながらも、望美は後について歩き始めた。 「君と、二人で歩きたかった…というのも本当です。」 肩越しに振り返り、弁慶はそう言って微笑んだ。 「っ!」 さぁっ…と吹き過ぎていった風に、二人の髪が踊る。 足を速め、望美は弁慶の隣に並んだ。 少しくらい遅くなっても、薬草を言い訳にしてしまおう。 だから…… 今だけは、ゆっくりと時間が流れてくれますように…… PR