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よみぢのほだし 小説の部屋

火弟巳生が書いた版権二次創作小説の置き場

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桜の下で【遙か3/弁望】

京ED後 薬師夫婦
桜を見て思い出すのは、舞い散る花弁を断っていた頃の思い出



桜の下で




 あれは…幾つめの運命でだっただろうか…
 
 庭に舞いこんできた桜の花びらに目を止め、望美は思い出を辿った。
 
 
 
 何度も何度も廻った京の春。
 神泉苑で剣を振り、その花弁を断つ練習をしていた望美は、不意に掌に痛みを感じて剣を取り落とした。
 
「しまった…」
 
 開いた掌には、潰れてしまった肉刺。
 今日は弁慶が一緒だから…と、いつもは持ち歩いている傷薬――怪我が絶えないからと弁慶から渡されていた――を置いてきてしまっていた。
 ハンカチを引っ張り出して、望美は池の淵へ寄る。
 とにかく、傷口を洗っておこうと手をつけた途端……
 
「え?!」
 足元がズルリ…と崩れた。
 
 青い色を背景に、淡紅色をした満開の桜が見えた。
 重力には勝てぬ…と池に落ちてしまうことを望美は覚悟して、目を閉じた。
 
「望美さん!?」
 
 聞こえた声が、誰のものかと考える間もなく、重力に逆らうように体が引き上げられる。
 そして、次の瞬間には、望美の体は冷たい水の中ではなく、なにか暖かなものの上に倒れ込んでいた。
 
「肝を冷やしましたよ…」
 
 聞こえてきた声に望美が顔をあげると、すぐ間近に、弁慶の顔があった。
 
 ――えっ!?
 
 池に落ちそうになった自分を弁慶が助けてくれたのだと、認識して…
 けれど、間近にある弁慶に顔に、自分が今どこにいるのか把握して…
 望美は、顔を真っ赤にして慌てて飛び退いたのだった。
 
 
 
 
 
 くすくす…と、縁に座って望美は思い出し笑いをした。
 
 あの時、池に落ちかけた望美を弁慶が助けてくれて。
 でも、すぐに、肉刺を潰した手を見つかってしまって……
 有無を言わせず、その場で治療された。
 
 足元には十分気をつけろ、とか
 無茶をしてはいけない、とか
 いくつもお小言を言われたことを思い出す。
 
 
「おや、望美さん?」
 
 後ろから掛けられた声。
 振り返った望美に穏やかな視線を向けながら、弁慶が隣に腰かけた。
 
「あ、弁慶さん。」
「日向ぼっこですか?」
「いえ、桜が……」
 
 庭へと向けた視線。
 つられるように、同じ方向へ視線を向けた弁慶の視界を、桜の花びらがひらり…と過ぎて行った。
 
 

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