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よみぢのほだし 小説の部屋

火弟巳生が書いた版権二次創作小説の置き場

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聖夜の華 1【遙か3/弁望】

迷宮クリスマス捏造
弁慶と共にやってきた江ノ島。花火の下で想うのは?

1.冬空に咲く光の華


 少し冷えた指先に感じる、優しいぬくもり。
 繋いだ手から…このドキドキが伝わらなければ、いいけれど……

 冬の空を彩る光の乱舞。
 いつか…あの遠い時空の浜辺で…皆で見た華とは少し違う色。
 きっと赤くなっているだろう私の頬を、花火の色とりどりの光が照らす。
 「夏の熊野で、景時が見せてくれた花火もきれいだったけれど……」
 囁くような言葉が降ってきて…隣に立つ弁慶さんを見上げると、横顔が花火の光で照らされていた。
「君と二人きりで見ているからかな?ずっときれいに見えます。」
 ふと振り返った瞳が私を捕らえる。
「……っ!」

『……誰かに奪われてしまわないように……』

 つい先ほど囁かれた言葉が、耳の奥で甦る。
 思い出して、頬が熱くなる。
 いつも、こういう言葉で翻弄されるけれど……今日は…少し違うような感じがする。
 それとも…ただ、クリスマスイブの雰囲気に、私が酔ってしまってるだけだろうか?
 視線から逃れるように見上げた夜空には、咲いては消えてゆく冬の花火。
 綺麗だけれど、儚くて淋しい……光の華。
 不意に…胸の奥に哀しみがこみ上げてくる。

 ――あたたかい……

 繋いだ手から伝わってくるぬくもり。
 この人がここに…私の傍に存在するという証。
 ふいに、ここではない時空での、哀しい…記憶が甦ってくる。
 だけど……
 今、この人は私の傍にいて、隣で微笑んでいてくれる。
 それが、今は…嬉しい。

 一際大きく、花火が連続で上がった。
 辺りが、夜とは思えないほど明るくなる。
 周りから、溜息のような歓声が上がった。
「きれいですね。」
 耳に届く柔らかな声。
 私は、何も応えられなくて……ただ、繋いだ手を強く握った。
「……どうかしましたか?」
 問われて、小さく首を振る。
 顔を見上げると、優しい微笑みが私の心を癒す。
 哀しみを……消し去ってくれる。
「何でも…ないです。花火がきれいだから……ちょっと、言葉を失っちゃって……」
 だから、私は誤魔化すようにそう言って微笑み返した。
「そうですね――でも……」
 そんな私に優しいまなざしを向け、頷く弁慶さん。
 突然、指を絡めるように手を握り直されて…私は少し戸惑ってしまう。
「花火の光に照らされた君も……とてもきれいですよ。あまりに美しすぎるから……僕も言葉を失ってしまいそうなくらいだ。」
「あっ…えっ…と……」
 甘い囁きと、私の瞳を覗き込んでくる弁慶さんに、どうしたらいいか分からなくなって…私は思わず俯いてしまう。

 ――今、私…絶対真っ赤になってる……

 動揺を隠せない私の耳に、小さく笑うような声が届いた。

 ――からかわれたのかな……

 ほんの少し、胸がちくりと痛む。
 そんな思考を打ち消すように、少し寂しげな声がした。
「あぁ…今ので、花火も本当に終わってしまったみたいですね。」
 その言葉の通り、急にざわつき始める周囲。
 ふと、顔を上げようとした途端…
「きゃっ!?」
 この場を離れていく人波に圧されて、よろめいてしまう。
 そのまま勢いに流されてしまうかと思った瞬間、強く…繋いだ手が引かれた。

 ――え?

「大丈夫ですか?」
 頭の上から声が聞こえる。
「へ…?」
 一瞬、何が起きたか分からない。
 顔を上げようにも、急な、この民族大移動のせいで身動きが取れない。
「ひとまず、この人波をやり過ごしたほうがよさそうだ……暫く、このままじっとしていましょう。」

 ――この…まま?

 なんだろう…すごくあたたかい。
「少し…体が冷えていますね。あたたかくしてきたんじゃなかったんですか?」
 困ったような声。
 雑踏。
 全身を包み込む、ぬくもり。
 花火の終了を告げるアナウンス。
 間近で聞こえる…鼓動……?

 ――……………

 「あっ!?」
 漸く、私は…自分の置かれた状況に気付いた。

 ――なんで、私…弁慶さんに抱きしめられてるのっ!?

「あのっ!」
 腕の中から抜け出そうと身じろぐと、
「いけません。こんな人ごみの中だと…手を繋いでいる位では、簡単に君と引き離されてしまう…」
 少し、可笑しそうに囁く声。
「か、からかわないで下さいっ!」
「からかってなんていませんよ。」
 抗議を遮り、さらに強く抱きしめられてしまう。
「――これだけ近くにいれば、お互いに見失うこともないでしょう?」
「っ!?」
 そう告げた声は、どこか楽しげで……
「それに…君の体は冷えきっていますからね。」
 耳元で困ったように囁く声。
 首筋に当たる吐息が…くすぐったい……
「連れ出したのは僕ですから…責任を持って暖めてあげます。」
 一気に体温が上昇した気がした。
「だ、大丈夫ですっ…寒くはないですし……ッ!」
 何とか腕の中から抜け出そうと、必死でもがく私。
 そんな私の背中に、通り過ぎた人の肩が当たって…結局、弁慶さんの胸へと顔を埋めることになってしまう。

 ――ひあぁ~ッ

 頭の中はパニック寸前。
「だから言ったでしょう。人波をやり過ごそう…と。大丈夫ですか?」
 心配そうな、その問いかけに答える余裕なんてない。
 心臓がバクバクいってる……
 絶対、聞こえてる…
 どうしよう……
 

「もう、大丈夫そうですね。」
 漸く解放されて、私は真っ赤になっているだろう顔を隠すように俯いた。
「あ…あの……かばってくれて……ありがとうございました。」
「――神子を守るのは、八葉として当然のことですよ。じゃあ、行きましょうか。」
 俯いたままの私の手をとって、弁慶さんは歩き出す。
 促されるまま歩くことしかできない私。
 なんだか……どうしたらいいかわからない。
 けれど――

『神子を守るのは、八葉として当然のことですよ。』

 ふと思い出したのは、弁慶さんの告げた言葉。
 あっ……そう…だよね。
 かばってくれたのは、私が神子だから。
 それは、八葉としての義務……
 それに思い至って、どぎまぎしていた自分に言い聞かせる。
 他意があるわけじゃないんだ…と
 そうだ。
 この人が、こんな言動をするのはいつものこと。
 ペースに流されてしまっただけ。
 いい加減…慣れなきゃ……
 だから――

「……花火、きれいでしたね。」
 何事もなかったかのように、私は手を引く弁慶さんに声をかけた。
 ふ…と足を止めて振り返る、いつもと変わらない微笑み。
「ええ、本当に。」
「来てよかった~。弁慶さん、ありがとうございます。」
 
 これでいいんだ。
 私の想いは…届いちゃいけない。
 ここは、この人の世界じゃない。

 鎌倉の龍脈が整って、白龍が力を取り戻したら…時空の狭間が開く。
 そうしたら……皆と一緒に、この人も帰っていくんだ……
 生きてゆく世界が違う……こんな想いを抱いちゃいけないんだ。
 そう…これまでどおり……神子と八葉でいいんだ。
 そうじゃなきゃいけないんだ。

 自分に、そう言い聞かせて……
 私は花火の余韻を残す江ノ島の輝きの中、伝わってくるぬくもりへの想いを……胸の奥へと閉じ込めた。

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