忍者ブログ

よみぢのほだし 小説の部屋

火弟巳生が書いた版権二次創作小説の置き場

[PR]

×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

夢見騒がし1 鷹通編【夢浮橋/弁望前提】

夢浮橋捏造・鷹通編

弁慶とあかねが話しているのを見かけた望美
不機嫌な望美に鷹通は・・・

夢見騒がし1 鷹通編



 ふと、視線の先に見えたのは見慣れた黒い外套。
 
 ――弁慶さんだ…
 
 別に用事があるわけでもないけれど…
 望美は、無意識の内に笑顔を浮かべてそちらへと足を向けた。

「べ…」

 弁慶さん……
 そう声を掛けようとして、望美は、弁慶の隣に紫苑の衣の少女が、僅かに頬を染めながら微笑んでいるのに気付いて踏み出しかけた足を止めた。
 
 ――あかね…ちゃん?

 どうして、二人が一緒にいるのだろう。
 何を、二人で話しているのだろう。
 胸の内に生まれる、もやもやとした感情。
 知らず知らずの内に、望美は右手で着物の胸元を握り締めていた。
 弁慶が、何を言っているのかは…ここまでは聞こえない。
 ただ、時折見える横顔は、いつもの優しい微笑みを湛えていた。
 
 ――私……
 
 心臓を握りつぶされるような痛みを感じて、望美は踵を返した。

 
「あっ!」
「きゃっ!」

 前も見ずに駆け出した望美は、そのままの勢いで誰かにぶつかってしまった。
 よろめいて倒れそうになったのを、ふわりと抱きとめられ、慌てて顔を上げる。

「大丈夫ですか?望美殿。」

 聞こえてきたのは、まだ聞きなれていない優しい声。
 心配そうに自分を見下ろしてくる、硝子の向こうの瞳が、どこか…年下の幼馴染のそれと似ていた。

「あ…鷹通…さん?」
「怪我などはされていないですね?」
「はい…あっ…ご、ごめんなさい。私…」

 一歩、後に下がって望美は慌てて頭を下げる。
 そんな望美の様子に、鷹通は訝しげに眉根を寄せた。
 
「どうかなさったんですか?急に…」

 突然、目の前に飛び出してきた別の時代の神子。
 先陣を切って戦いに赴く威勢のよさを持つ少女は、彼が神子と仰ぐあかねとは、違った雰囲気を持つ神子だった。
 その望美が、いつもと違って…どこか沈んだ表情をしているのが気になった。

「なんでもないです。」

 取り繕うような微笑み。
 やはり、どこかおかしい。
 
 鷹通は、あかねの八葉の一人だ。
 ふ…と脳裏に甦る……先程の光景。
 望美は、それを払拭しようと頭を横に振った。

「いきなり飛び出してきて、すみませんでした。」

 何ごともなかったかのように、望美はにっこり微笑んで謝罪の言葉を述べる。
 そして――

「そうだ。」

 何かを問われる前に…と、望美は、話を逸らしてしまおうとした。

「鷹通さんって、京ではどんなお仕事してるんですか?」

 唐突な問い掛け。
 それは、きっと…聞いて欲しくない何かがあるのだろう…と思い、鷹通は望美の問いかけへと答えることにした。

「戸籍などを扱う仕事をしています」
「じゃあ、役人さんなんだ。」

 望美が召喚されたという時代は、鷹通が生きる時代より200年ほど後だ。
 変わったことや変わらないことなど…気になることは多々ある。
 
「鷹通さんは、物知りだから…きっと、あかねちゃんも頼りにしてるんだろうなぁ…」
「いいえ…私などは……」

 感心したように言う望美に、鷹通は慌てて首を横に振った。

「他の時代の八葉と話をしていて、私などは、まだまだ知識不足だと思い知らされてばかりです。」
「そうなんですか?」

 驚いたように見返してくる望美に、鷹通は微笑んだ。

「ええ。特に…弁慶殿などは……」

 望美の八葉である弁慶は、本当に物知りだと思う。
 鷹通は、彼の龍神に関する知識の豊富さには驚かされてばかりだった。
 しかし…

「………」

 突然、望美の表情が凍りついた。

「望美殿?」
「弁慶さんは……」

 不機嫌な横顔。
 なにか…怒らせてしまうような事を言ってしまったのだろうか…

「あの…どうか……」
「いろいろ知ってるけど、いつも女の人に甘いセリフばっかり!」
 
 ああ…
 鷹通は胸の内でため息をついた。
 馬に蹴られるなんとやら…といったところか。

「そうですか?」
「そうです。」

 敵に向かってゆく時の凛々しさが嘘のように、年頃の娘らしい態度を示す望美に、鷹通はこみ上げてきた苦笑を抑えられなかった。

「……友雅殿のように?」
「え?」

 瞳を瞬いて、望美は鷹通を見つめた。

「あまり想像できませんね。」
「そ…それは…」

 唇を尖らせて、望美は俯く。

「友雅さんほどじゃないかな…とは思いますけど……」
「女性にお優しいのでしょう?」
「だけど!」

 きっと、他の神子と楽しげに話している様子でも見てしまったのだろう。
 そんな風に予想する。
 けれど…
 
「弁慶殿は、いつもあなたのことばかり話されてばかりいますよ。」
「え?」

 思いがけない言葉。
 顔を上げると、眼鏡の奥で、優しい瞳が望美を見つめていた。

「………鷹通さん?」
「だから、弁慶殿を信じてあげてください。」

 なぜだろう。
 この人に諭されると、納得してしまいそうになる。
 思わず、頷いてしまいそうになる。
 それに……
 
 ――ちょっと、気持ちがすっきりしたかも…
 
「ごめんなさい。変なこと言っちゃって。」
「少しでも、あなたの力になれたのなら、よかった。」
「ありがとうございます。」

 微笑んで、望美は礼を言った。



【夢見騒がし2】へ




拍手

PR