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よみぢのほだし 小説の部屋

火弟巳生が書いた版権二次創作小説の置き場

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夢見騒がし2 彰紋・幸鷹編【夢浮橋/弁望前提】

夢浮橋捏造・彰紋・幸鷹編

弁慶と花梨が話しているのを見かけた望美
様子がおかしい望美を彰紋も幸鷹も心配するが



夢見騒がし2 彰紋・幸鷹編


 
 ――どこ行っちゃったのかなぁ…弁慶さん

 訳の分からない場所で、気が急いていたのだろう。
 望美は、潰れてしまった手の肉刺を濡らしたハンカチで冷やしながら弁慶を探していた。
 後で、言わなかったと怒られる前に、診てもらおうと思ったのだ。
 ふと…視界で黒いものが揺れたのが見えて、望美は反射的にそちらへと振り返った。
 
 ――あ。いた!
 
「ッ!?」
 
 声を上げ、そちらへ向かおうとした足が止まる。
 水干姿の短い髪の少女の存在に気付いて。
 
 ――花梨ちゃん?

 傷の手当てをしているようだ。
 不意に、生まれてくるのはもやもやとした感情。
 弁慶が誰かの傷の手当てをするのは、いつものことだ。
 彼が薬師でもあるのだから、当然のこと。
 なのに、何故…?
 
 望美は、そのまま踵を返して、その場を離れた。

 
 
「痛ッ…」

 疼きだした肉刺に、望美は顔を顰めた。
 本当は、早く治療した方がいいのだろう。
 いつ戦闘になるとも知れない場所なのだから。
 けれど…

「私、何やってるんだろう……」

 ため息をついて、望美は傍らの壁へと背中を預けた。

「そこにいらっしゃるのは望美さんですか?」

 不意に聞こえた声に、どきり…とする。
 跳ね返るように振り返ると、不思議そうな顔で佇んでいたのは彰紋だった。

「あ…彰紋くん?」

 心臓が止まるかと思った。
 少し似ているとは思っていたが、「望美さん」と呼ばれると、やはり彰紋の声は弁慶と似ていた。

「どうかなさったんですか?」

 痛みに顰めた顔を見られただろうか…
 思いながら、望美は微笑んで首を横に振った。

「そう…ですか。ならいいのですが…」
「なんでもないよ。それより、何してたの?」

 望美に問われて、彰紋は一つ頷いた。

「ええ、実は、弁慶殿を探していたのですが…どこかで見かけられませんでしたか?」
 「知らないっ!」
 「え?」

 鋭い、どこか不機嫌そうな声を返されて、彰紋は瞳を瞬かせた。
 何か怒らせるような事をしてしまっただろうか…と記憶を辿るが、見当がつかない。

「あの、望美さん?」
「…………ッ………」

 戸惑うように視線を泳がせて、望美が言葉に詰まる。

「どうか…?」
「ごめんなさいっ!」
「あっ」

 彰紋は、背を向けて走り去ってしまった望美の背中を見送ることしかできなかった。

 
 

 ――私…
 
 ぎゅっと、手を握り締めて望美は走っていた。
 心配してくれただけなのに。
 ただ弁慶を見たか…と聞かれただけなのに。
 八つ当たりのような態度を取ってしまった自分が、情けなかった。
 

「望美殿っ!?」

 突然耳に届いた名を呼ぶ声。
 それと共に、腕が強い力で引かれた。

「えっ?」
「危ないですよ。」

 聞こえた声で我に返ると、足元は、あと数歩というところで崖のような場所だった。

「ごめんなさい…」

 謝罪の言葉と共に、すんでのところで止めてくれた人物へと視線を向ける。
 ほっとしたような目が、眼鏡の向こうに見えた。

「ありがとうございます。幸鷹さん。」
 「いえ。それよりも……」

 幸鷹の視線が掴まれた手に注がれるのに気付いて、望美は慌てて手を振り払った。

「その手、どうされたのですか?」
「何でもありません。」

 隠すように、望美は自分の胸の前で手を組んだ。

「薬師に…弁慶殿に診ていただいたのですか?」
「っ!」

 また弁慶の名が出て、望美は、瞬間的に血が上るのを感じた。

「弁慶さんは関係ありません!」

 まるで、駄々をこねる子供のようだ。
 自分の中の冷静な部分が、そんな評価を下す。
 けれど、自分でも持て余してしまっている感情を、どうしようもなかった。
 
「あまり、心配をかけるものではありませんよ。」

 そんな望美に掛けられたのは、静かな言葉だった。

「え?」

 すぅ…と下がってゆく熱。

「弁慶殿はいつも、あなたの事を一番心配なさっているのですから。」

 眼鏡の奥で優しい瞳が、望美を諭すように見つめていた。

 知っている。
 いつだって、望美の事を心配してくれていることも。
 望美の幸せを願ってくれていることも。
 全部知ってる。
 子供のような我が儘な感情を抑えられない自分が悪いのも…分かっている。

「ごめんなさい…」
 
 諭してくれた幸鷹に、八つ当たりをしてしまった彰紋に、…望美は、謝罪の言葉を零したのだった。




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