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よみぢのほだし 小説の部屋

火弟巳生が書いた版権二次創作小説の置き場

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9月15日【遙か4/葦原家】

那岐誕生日記念
微妙に過去を捏造気味の那岐生誕記念SS
葦原家でCPなしで、ほのぼの家族


9月15日


 

「那岐は?」

「昼寝、してるよ。」

 人差し指を唇の前に立てて、悪戯っぽく千尋が笑った。

「じゃあ、今のうちに……」

 くすくす…と笑いながら、手にしたボウルの中を手早くかき回す風早。

 千尋は、腕まくりをしてまな板の上のキノコに取り掛かった。

 

 

 

 

 

 

 

*       *       *

 

 

 

 

 

 

 

「な~ぎ~」

 千尋の声がして、半分夢の中にいた那岐の意識が浮上する。

「……」

「那岐ってば~、ごはん~」

 トントンと、階段を上がってくる聞きなれた軽い足音。

 那岐は、むくり…と身を起こして乱れた髪をかきあげた。

「那岐?早く起きてよ!」

 とうとう足音と声は部屋の前までやってきて…

 痺れをきらしたような千尋の声が、すぐ近くに聞こえた。

「うるさいよ。今行く。」

「早く降りてきてよね。」

 那岐の返答に、千尋がもう一声だけかけて、踵を返し階段を下りていくのが聞こえた。

 欠伸一つ。

「…結局、昼丸々寝たな…」

 呟いて、那岐は、さすがに祝日の一日の殆どを寝てすごしたのは無駄だったかと頭の片隅で思った。

「さて…と」

 ベッドをおり、締め切っていた部屋の扉を開く。

 いい匂いが階下から流れてきていた。

 

 

 

 

 

「那岐、誕生日、おめでとう。」

 階下に下りると、いきなり、楽しげな千尋の声。

 那岐は、目を瞬いた。

「何?」

「何って、今日は、那岐の誕生日でしょ?」

 にこにこと、嬉しそうに笑って、千尋は那岐に座るように促す。

「誕生日とか、どうでもいいし。」

「どうでもよくないよ。ほら、今日のメニューは那岐の好きなキノコ尽くしだからね!たくさん食べて!!」

 見れば、確かに、テーブルの上にはキノコ料理が満載だ。

「うわ…なに、これ。」

 いろんなキノコ料理に、さすがの那岐も驚きを通り越して呆れが混じる。

 

「千尋と二人で、作ったんです。」

 言って風早が示したのは、抱えていたケーキ。

「珍しくたたき起こしに来ないと思ったら、二人して、こんなことしてたんだ?」

「こんなことってなによ!折角、那岐の誕生日だから、色々つくったのに!」

「文句があるなら食べなきゃいいでしょ!」

「別に文句があるわけじゃないよ。」

 そっぽを向いたまま、拗ねたように言う千尋へと那岐が返す。

「……」

 頬を膨らます千尋、ぷい…と横を向く那岐。

 

「二人とも、その辺にしておきましょう。」

 風早は苦笑を浮かべながらテーブルへとケーキを載せた。

 共に「ここ」で暮らすようになってから、毎年繰り返される光景。

 穏やかに毎日が過ぎている証拠だろう。

 

「那岐は、もっと素直になった方がいいと思うよ。」

「大きなお世話だよ。」

「千尋。那岐。」

 言い合いをやめようとしない二人の名を、風早が呼ぶ。

 微かに肩を震わせ、二人が押し黙った。

 

 ――これ以上は、風早を怒らせてしまう…

 

 そう思ったのはどちらか…口論をやめて、二人は椅子に座った。

 

「ケーキ、蝋燭立てますね。」

「いらないよ、子供じゃあるまいし。」

「え~、バースディケーキならやらなきゃ!」

 結局押し切られて、立てられる年の数の蝋燭。

 明りが消えて、蝋燭の火だけが室内を灯す。

 

「はっぴ ばーすでぃ とぅ ゆー …」

 楽しげに歌いだす千尋。

 一瞬だけ眉を顰めた那岐が、ふっ…と表情を緩めた。

 風早も一緒に口ずさむ。

 那岐は、もう、それを止めなかった。

「はっぴ ばーすでぃ でぃあ な~ぎ~」

 歌の中に入る、己の名。

 ほんの少し照れくさい瞬間。

「はっぴ ば~すでぃ とぅ~ゆ~」

 

 千尋の期待に満ちたまなざし。

 こっそりと溜息をついて、観念した那岐が蝋燭の火へと息を吹きかける。

全部消えた途端、ぱちぱちと千尋が拍手して今日これまでで一番嬉しそうな声を上げた。

「那岐、おめでとぅ~」

 

 

 

 再び灯される部屋の明り。

 蝋燭の柔らかで仄かな光と異なる、皓々とした冴えた光。

 ここへきて、初めて知った…無機質だけれど明るい…光。

 

 プレゼントだの、なんだのと騒ぎ出す千尋を抑えて、始まる食事。

 三人だけの家族だけれど、この団欒はキライではなかった。

 

 来年も、再来年も、その次も…ずっと……

 面倒だけれど、一緒に、こういう時間を過ごすことができればいいのに……

 胸の内で、そう思ったのは、千尋にも風早にも内緒にしておこう……

 

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