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よみぢのほだし 小説の部屋

火弟巳生が書いた版権二次創作小説の置き場

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このひとときも共に【雅恋/和彩】

エピローグ後 捏造】
ED(入内)後いちゃらぶな感じの2人のお話
ずっと、このおだやかでしあわせな時間が続けばいいのに


このひとときも共に



 聞こえてきた足音に、彩雪は睨み合っていた香炉から視線を上げた。

 ふうわりと、そよ風に乗ってきた香りに、自然と浮かんでくる笑み。

 

 

「あーぁ。もう、ほんと疲れたよ。」

 

 声と共に御簾を潜って入ってきたのは、天照皇として正装したままの和泉だった。

 

「ふふ、お疲れ様。和泉。」

 

 

 寛ぐように腰を下ろした和泉へと、労いの言葉を笑顔と共に向ければ、優しい笑みが返ってくる。

 

「彩雪の顔を見たら、疲れなんて消えてしまいそうだよ」

「もう、げんきんなんだから…和泉は」

 

 くすくすと笑い、彩雪は立ち上がった。

 そろそろ来る頃だろうと思い用意していた茶を、和泉へと手渡す。

 

「ふふふっ、ありがとう。彩雪。」

 

 それを受け取って、一口。

 ほぅ……と息を吐いてから、和泉は彩雪を振り返った。

 

「やっぱり、彩雪の淹れてくれるお茶は、なんだかほっとするね。」

「そう?ありがとう。」

 

 衣擦れの音を伴わせて、彩雪は和泉の隣へと腰を下ろす。

 そよ…と風が吹き込んで、御簾と几帳を揺らした。

 

「うーん、いい風だね。」

「御簾、上げる?」

「んー、いいよ。このままで。」

 

 彩雪の提案に、和泉は少し考えてから首を横に振った。

 

「だって、誰かに邪魔されるのも嫌だし……ね?」

「邪魔?」

 

 ちょこんと首を傾げる彩雪。

 和泉は、僅かに悪戯っぽい笑みを浮かべて手を伸ばした。

 

「きゃっ!?」

 

 彩雪が小さな悲鳴を上げる。

 突然、引き寄せられ、平衡を失ってしまったからだ。

 

「だって、こうやって彩雪と二人きりで仲良くしてるところ、あんまり他人に見られたくないし、邪魔されるなんてとんでもないよ。」

 

 抱き寄せて、和泉は彩雪の髪へと顔を埋めた。

 

「ちょ、和泉!」

 

 慌てる彩雪の抵抗など、あっさりと押さえ込み。

 そのまま、膝の上へと抱え上げる。

 

「だーめ、離さないよ。」

 

 耳元で囁く声に、彩雪はびくりと背を震わせた。

 くすぐったさと、何ともいえない甘い痺れ。

 それが、抵抗する気を失せさせる。

 

「……恥ずかしいよ」

「誰も見てないだろう?」

 

 耳朶に、額に、瞼に、鼻先に、頬に、首元に……

 和泉の唇が降ってくる。

 明るい中でのそれに、彩雪は身じろいだ。

 

「で、でも……」

「ねぇ、彩雪」

 

 抗議しようとした彩雪の言葉を遮って、和泉は吐息だけで囁きかける。

 

「んっ……」

 

 ぞくりと背を駆け上がってゆく感覚に、彩雪は小さく声を漏らした。

 

「ご褒美、欲しいな……」

 

 何かを期待するような表情。

 笑みを含む……けれど、熱の籠った視線。

 

「……………」

 

 彩雪は、ふ…と表情を和らげた。

 伸ばした手で、柔らかな和泉の髪を撫でる。

 淡い笑みを浮かべて、小さく一つ頷く。

 

「うん。頑張った和泉に、ご褒美……」

 

 ちゅっ、と。

 軽く触れる唇。

 驚いたように目を瞠る和泉に、彩雪は頬を染めた。

 

「ふふふっ、ほんとに彩雪は可愛いなぁ……」

 

 くすくすと幸せそうに笑って、和泉は、ぎゅっと彩雪を抱きしめた。

 頬を撫で、髪を撫で、指先で彩雪の唇へと触れる。

 

「い…ずみ……?」

「……ね、彩雪……目、閉じて?」

「――うん……」

 

 囁きに答えて、彩雪は瞼を閉じる。

 吐息を間近に感じて、彩雪は少し体を強張らせた。

 ふわり…と、軽く唇が触れ合う。

 それは直ぐに離れていって……また、今度は少し長めに重なった。

 

「ん……」

「……さゆ…き……」

 

 甘い呼び声に、彩雪は、和泉の着物をぎゅっと握りしめた。

 何度も重なりあって、次第にそれは熱を帯び、深くなってゆく。

 息苦しくて、けれど離れたくなくて……

 彩雪は、和泉へと縋りついた。

 

 

 

「あッ!」

 

 びくりと体を跳ねさせて、彩雪が短い悲鳴を上げた。

 

「ちょ、まっ!和泉、駄目」

「どうして?」

「だって、まだ明るい……」

 

 ぐいぐいと、彩雪は慌てて和泉の体を押しやった。

 口づけに酔いしれているうちに、和泉の手が胸に触れたのだ。

 いくらなんでも、こんな時間から……!と慌てる彩雪に、和泉はにこにこ笑みを浮かべながら、彩雪を抱き締める。

 

「――彩雪がいけないんだからね?」

「え!?」

「あんな可愛い口づけされたら、我慢なんて出来なくなっちゃうだろう?」

「そ、そんなの知らない!」

 

 ぺしり、と今度は緋袴の紐に伸びてきた手を叩く。

 

「と、とにかく駄目!!」

 

 渾身の力を込めて和泉の体を押しやり、彩雪は急いで膝の上から逃げ出した。

 

「あーあ、逃げられちゃった。」

「和泉!!」

 

 真っ赤になって怒っても、そんなものどこ吹く風の様子の和泉。

 彩雪は大きく溜息をついた。

 

「からかったわけじゃないからね?」

「…………」

「だから、そんな顔しないでほしいなぁ」

「和泉が悪いんだよ」

 

 ぷいっと頬を膨らませてそっぽを向く。

 色々悔しかった。

 

「だって、彩雪が可愛いから、ね。仕方ないだろう?」

 

 ぎゅうっと、背中から抱きしめられる。

 彩雪が肩を跳ねさせると、

 

「何もしないから……今は。」

 

 耳に届いたのは、そんな意味深な囁き。

 それでも、まあ。

 とりあえずは諦めてくれたかと、彩雪は肩の力を抜いた。

 恐らく……

 

 ――今夜は寝れないかも……

 

 そんな予感が過る。

 それはきっと的中する…予感。

 

 

 

 

 

「あれ?彩雪、これ……」

 

 不思議そうな声に、彩雪は我に返った。

 どうしたのだろうと和泉の顔を見上げ、その視線の先にあるものに気付いて慌てる。

 

「あ、うわぁ!」

 

 それは、広げっぱなしだった香合わせの道具。

 思っていた以上に散らかっていて、彩雪は顔が熱くなるのを感じた。

 

「えっと、ね。どうやったら思うように合わせられるのかなぁって。それで、その……」

「そっか。」

 

 しどろもどろになりながらの説明は、まるで言い訳でもしているような感じになってしまって、彩雪の頬は、ますます赤みを帯びてゆく。

 嘘を言っているわけでもないが、和泉のために香を合わせたいのだということは伏せているのだから……言い訳と言えば言い訳なのかもしれない。

 

 

「ほんっとに、彩雪は可愛いなぁ」

 

 腕の中でわたわたとしてる彩雪が、微笑ましいと思った。

 何か隠し事をしているようではあるけれど、今は、聞きださなくてもいいだろう。

 和泉は、両腕に力を込めて、ぎゅっと彩雪を抱きしめる。

 小さな悲鳴が上がったけれど、愛おしくて仕方なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 くすくすと、二人で笑い合う。

 過ぎてゆくのは穏やかに流れる時間。

 

 これが、永遠に続けば……と思う。

 

 

「彩雪?」

「ううん、なんでもない」

 

 抱きしめてくる和泉の腕を、彩雪はそっと両手で包み込んだ。

 色んなことから、守ってくれる和泉の両手。

 それが、とても幸せだ。

 

「しあわせだなぁって……思ったの。」

「うん。俺も、幸せだよ。」

 

 ぎゅうと、強い力が彩雪を抱き寄せる。

 離しはしないとでも言うように、和泉の両腕が彩雪の体に絡みつく。

 

「ねえ、和泉。」

「ん?」

「大好き…」

「俺も、彩雪のことが大好きだよ…」

 

 

 そよと吹きこむ風。

 

 他に誰もいない二人きりの場所を、あたたかな風が吹きすぎて行った

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