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よみぢのほだし 小説の部屋

火弟巳生が書いた版権二次創作小説の置き場

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ねこ【雅恋/和彩】

2月22日=にゃん、にゃん、にゃん の日というわけで
お猫様のでてくるED後のお話

猫と一緒に、猫に追い回された弐号くん(猫捜索要員)が飛び込んで来て――
というオチにしたくなるのを堪えました

ねこ




「猫?」

 二度三度目を瞬かせて、彩雪は首を傾げた。

 猫と言えば、いつだったか……

 まだ仕事寮に入ったばかりの頃、捜しまわった――あのちょっと大きなお猫様のことが思い出される。

「そう、猫。」

「猫がどうしたの?」

 

 そよと揺れる几帳。

 さらり…と首を傾げる彩雪の髪も揺れた。

 

「覚えてるかい?あのお猫様のこと。」

「覚えてるよ。」

 

 指に触れる柔らかな髪。

 膝の上から見上げてくる双眸が、楽しそうに微笑んでいた。

 肩口から零れる彩雪の髪を指に絡ませる和泉。

 几帳も御簾もあるからといって、膝枕で両足も投げ出して寝転がっているなど……今、ライコウでもやってくれば眉を顰め小言の一つ二つは出てくるかもしれない。

 そんな風に頭の片隅で思いながら、彩雪は、和泉の言葉を待っていた。

 

「また、どこかへ逃げ出したみたいだよ。」

 くすくすと、可笑しそうに和泉が笑う。

 困ったお猫様だ。などと言ってはいるが……

「……えっ!?逃げ出したって、それじゃあ!」

「うん。ライコウも捜索に駆り出されたよ。」

 仕事寮が実質機能していない今、それも仕方ないことなのだろうけれど……

 お目付役がいないのをいいことに、和泉は此処でゴロゴロのんびりしている……ということか。

 

「わたしも探しに行った方がいいのかな?」

 腰を浮かせた彩雪の膝から頭がずり落ちて、和泉は不服そうな顔で体を起こした。

 今にも立ちあがって部屋を飛び出していきそうな彩雪の手首をやんわりと掴んで、引きとめる。

「君が行く必要なんてないよ。」

「だけど……」

 この猫は、女の子が好きなんだ――そんな風に言っていたのは和泉だ。

 きっと、捜しまわっているのはライコウを始めとした男たちだろう。

だとしたら――

 

「仕事寮に依頼が来たわけでもないし、何より俺や彩雪が出て行ったりしたら――それこそ、別の大騒ぎになってしまうだろ?」

 それはそれで面白そうだけどね。と悪戯っぽく笑う和泉の言葉に、彩雪は納得する。

 ただの式神が床下を覗きこんだり走り回ったりしていたのとは、もう違うのだ。

 天照皇とその后が、たとえ先帝ご寵愛のお猫様とはいえ――猫探しをしようなど、それこそ洒落にならない。

 

「う……」

 息を吐き、彩雪は頷いた。

 諦めて座り直せば、鮮やかな衣の裾がふわりと広がる。

「だから、俺たちはこうやってのんびりしてればいいんだよ。」

「もう……」

 

 座り直した彩雪の膝に、また和泉は頭を乗せた。

 握ったままだった手に唇を押し当てれば、軽く目を瞠った彩雪は頬を桜色に染める。

 柔らかな髪をもう片方の手で撫でれば、和泉は気持ちよさそうに目を閉じた。

「和泉が猫みたい……」

 少し呆れたように呟かれた言葉。

「そう?」

 くすくすと笑いを零しながら、和泉は手を伸ばした。

 軽く上体を起こし、伸ばした手で彩雪の頭を引き寄せる。

「和泉?」

 近づいてくる瞳に、彩雪は目を閉じた。

「さゆき……」

 吐息だけが名を囁いて、じんと体に沁み込んでくる。

 そして――

 

 

 

「にゃぁーん」

 

 がたんっ

 

 不意に聞こえたのは小さな鳴き声と大きな物音。

 びくりと体を震わせて、二人は同時に動きを止めた。

 開いた目の前には、凄く間近にある互いの顔。

 そして……

「きゃあっ!」

 突然飛び込んできた大きな毛玉に、彩雪は小さな悲鳴を上げた。

 何が起こったのかと視線を向けてみれば……

「猫?」

 件のお猫様が、彩雪の膝の上に乗っていた。

 

 ――うぅ……やっぱり重い……

 

 ずっしり…という表現が似合いの大柄な猫は、まるでそこが自分の居場所だとでも言わんばかりに、居座ってしまう。

 和泉が、はぁ…と大きなため息を吐いた。

「そこは俺専用だから、どいてくれないか。」

「和泉!」

 恥ずかしいことを言わないで欲しいと思いながら視線を移せば、眉を寄せ苦笑を浮かべながら猫を見る和泉の姿。

 けれど、猫はそんな和泉の恨みがましそうな視線など無視で、くぁっと小さく欠伸した。

「仕方ないね……」

 指で軽くつついても、鬱陶しそうに尻尾を揺らすだけの猫に和泉は諦めたように呟いて立ち上がる。

「どうしたの?和泉。」

「おいで、彩雪。」

 彩雪に猫を抱かせて、立ち上がるように促す。

 首を傾げ、前よりも重くなったんじゃないかと思わせる猫をしっかりと抱えた彩雪は、和泉の後を追って部屋を出た。

 

「いつまでも居座られたくないし、飼い主の元に送り届けてしまおう。」

「あ、そっか。そうだね。」

 

 和泉の言葉に頷いて、前のように動きやすい衣なら、こんなに苦労せず猫を抱えられただろうに……と思いながら、彩雪は慎重に足を運ぶ。

 慣れない衣に足を取られて転んでしまっては、自分だけでなく猫まで巻き込んでしまう。

「大丈夫?」

「うん、二回目だし。」

「そうだったね。」

「にゃーん!」

 くすくすと笑い合えば、自分も仲間に入れろと猫が声を上げた。

 

「このお猫様を送り届けたら、続き……だからね?」

「え?」

 耳元で告げられた言葉。

 続いて頬に触れたのは……唇。

 言葉の裏に含まれた意図に気付いて――彩雪は顔を赤く染めた。

 

「じゃあ、急ごうか。」

「うん。」

 

 

 隣に並んで歩く和泉の腕が、猫を抱く彩雪の腕に添えられた。

 驚いて視線を上げれば、優しく微笑む双眸。

 ほんの少し、重さが和らいだ気がして……彩雪は微笑み返した。

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