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よみぢのほだし 小説の部屋

火弟巳生が書いた版権二次創作小説の置き場

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秋空の下【雅恋/和彩】

エピローグ後 捏造
和泉と想いを交わし遠くないうちに入内することになった彩雪
買い物に来た市で会った人たちと話していて思うことは


秋空の下

 

 小春日和の空の下。

 わたしは、足早に市場へと向かっていた。

 

 

 

 

「参号。墨がもうないぞ。すぐに買ってこい」

 

 そう、尊大なご主人さまから言いつかって、大急ぎで邸を出てきたのだ。

 ついでに紙も買ってこい。とまで言われてしまったから、帰りの荷物は大変なことになるだろう。

 何度も行き来するのも面倒だから、他の買い物も済ませてしまいたい。

 

 

 

「あー!おねえちゃんだ!!」

 

 墨と紙を買い、残るは食材や日用品の買い物だけ……と思っていると、不意に聞こえてきた声。

 振り返ってみれば、前に、和泉と一緒に鶴を折った子供の一人が、こちらへ駆けてくるのが見えた。

 

「こんにちは。おねえちゃん」

「こんにちは。どうしたの?」

 

 にこにこしている、その子と目線を合わせて、わたしは問いかけてみた。

 

「おねえちゃん、いずみさまは?」

「和泉?」

 

 そうだ。

 いつも、和泉はここへきて子どもたちと遊んでいた。

 でも……

 

「ごめんね。今日は一緒じゃないの」

「いずみさま、ぜんぜんきてくれないね」

「そう、だね」

 

 しゅんとしてしまったその子。

 和泉は今、とても忙しい。

 わたしだって、すごく会いたいけれど……簡単に会うことなんてできない。

 

 ――会いたいなぁ

 

「いずみさまは、いそがしいんだよって、げんしんせんせいがいってた」

「うん……」

「おねえちゃんは、いずみさまとあえるの?」

「ううん。わたしも、全然会えないよ?」

 

 ――和泉……

 

 わたしを后にって言ってくれた和泉。

 言葉を、想いを交わしたけれど……あれからほとんど会ってない。

 

「おねえちゃん?」

 

 ――今頃どうしてるんだろ?

 

「おねえちゃん、さびしそう」

「え?」

 

 小さな手が、わたしの頭を撫でてくれる。

 だめだなぁ、こんな小さい子に心配されるなんて。

 

「大丈夫だよ。ありがとう」

「ほんと?」

「うん」

 

 にっこりと笑いかければ、その子もにっこりと笑い返してくれた。

 

「おやおや。珍しい組み合わせだなぁ、これは」

「お嬢ちゃんが来てくれると、子供たちも喜ぶからねぇ」

「今日は、おつかいかい?」

 

 掛けられた声は、いつの間にか聞きなれた、市場のおじさんたちの声。

 

「こんにちは!」

 

 立ち上がり、おじさんたちに挨拶する。

 この人たちは、みんな、和泉のことを大切に思ってくれてる人たち。

 わたしを、和泉を元気づけてくれた人たち。

 

「忙しいみたいだねぇ、和泉様は」

「さすがに、今までのようにはいかないだろうねぇ」

 

 ふ、と過ぎったのは、もうじき……わたしもここにはほとんど来れなくなるのだということ。

 

 ――そっか。そう、だよね……

 

 後宮に入ってしまえば、これまでのようにはいかない。

 和泉の傍にはいられるけれど、この人たちには会えなくなる。

 

「どうしたんだい?」

「そりゃ、お嬢ちゃんだってさびしいだろうよ」

 

 わたしが表情を曇らせてしまったことを、和泉と会えないからだと思ってしまった皆が気遣うような声をかけてくれる。

 

「あ、ううん。そうじゃなくて」

 

 ――でも。それでも……

 

「きっと――」

 

 わたしは、ぽつりと思いを口にした

 

「ここには来れないけど……皆さんのことを大切に思ってるのは変わらないと思います」

 

 それは、わたしの気持ち。

 そして、和泉も、きっとそう思ってる。

 

 和泉の守りたいものを、私も守りたい。

 和泉の信じたいものを、私も信じたい。

 だから――

 

「だから……」

「そうだな」

「そのうち、ひょっこり寄られるかもしれんね」

 

 やっぱり。

 この人たちのことが、大好き。

 くすくすと込み上げてきた笑い。

 

「いつもみたいに、ひょっこりやって来て」

「そしたら、あの大きい武人さんが、こーんな目して追いかけてきて」

 

 飄々とした和泉の姿と、その奔放な主に手を焼くライコウさんの姿を思い出して、わたしは声をあげて笑った。

 おじさんたちも笑いだす。

 こんな時間が、本当に愛おしい。

 

 

 

 

 

 

「ふふっ、いつまでも油売ってたら怒られちゃう……」

 

 我に返って、わたしは慌てて買い物を再開する。

 あんまり遅いと、きっと、晴明様に怒られてしまう。

 こんな時に限って、壱号くんも弐号くんもいないのだから。

 

「おお、そうだったなぁ」

「今日は、何がいるんだい?」

 

 あれとそれ、これ、と必要なものを買いこんで、わたしは市場のみんなへ別れを告げた。

 

 

 

 

 

 

 小春日和の空の下。

 ほんの少しの寂しさと、与えられたあたたかい気持ちを胸に。

 わたしは、お邸へ向かって急ぎ足になる。

 

 まだ、上手に書けるわけでもないけれど。

 今日のことを、和泉に伝えたい。

 早く帰って、和泉に文を書きたい。

 みんなのこと、教えたい。

 

 だから……

 両腕に抱えた重い荷物のことなんて気にならなかった。

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