観月の戯れ【雅恋/和彩】 2011年05月17日 雅恋~MIYAKO~ 0 本編中「観月の宴」イベント中 貴族に絡まれていた彩雪を迎えに、邸の外へと出てきた和泉 二人で見上げる赤く喰われた月。胸に去来する想いは…… Memory… 天空から淡光-ひかり-を地上に放つ月。 美しく夜空を照らしている筈のそれだけれど…… あの赤く喰われた月の姿など、見知る者など殆どいない。 ――気楽なものだよなぁ…… 邸の中では、今もなお、賑やかしく観月の宴が催されている。 けれど、ここは静かだ。 宴がどこか遠くの事のように思えてしまって、もう戻る気も起こらない。 本当は、ここへ連れてくるべきではなかったのだ。 ライコウは「宮の護衛」名目だから何の問題もないと思っていたのだろうが……実際には、そうはいかぬ。 だから、最初から彼女に与える選択肢に入れるべきではなかった。 それを今更悔いたところで、後の祭りなのだが…… そう――「分かっていた」はずなのだ。 こんな風に隣り合って――同じ場所で同じ時間を過ごす事などできるわけがない。 自分が何者なのか 彼女が何者なのか それを考えれば、これ以上は駄目なのだ。 これ以上……近づいてはいけない。 ――それは、分かってるつもりだったんだけどな…… 少女が、黙ったままの自分の背中をじっと見つめているのが分かる。 無垢な彼女は、まだ恋に――誰かの色に染められたこともない幼い子どもと同じだ。 それなのに―― こちらの心は、どんどん彼女に傾いていこうとしている。 駄目だというのに。 自分も彼女も悲しむ結果になることなど、初めから分かっているのに。 「戻らなくてもいいの……?」 不意に聞こえてきた遠慮がちな声。 その声音が耳をくすぐる。 それは、とても甘美な誘惑だ。 振り返れば、心配げに見つめてくる双眸。 「いいんだよ。月は、どこからでも見える。」 「そ、そうじゃなくって……」 和泉の言葉に、慌てたように……そして心配そうに言葉を募らせようとする様子が可愛らしいと思う。 宴の席から出てきてしまったのだから、きっと心配されている。 和泉に迷惑がかかってしまってはいけない。 そう考えていることが、表情だけでわかってしまう。 それが少し嬉しくて、同じくらい楽しくて……言い募る言葉を、のらりくらりとかわせば、ぽかんと口を開いて見つめてくる姿。 ――キミは、本当に可愛い…ね ほんの悪戯心で、指先で触れた唇は柔らかくて…… 胸を――感情を震わせた。 ――このまま…… 誰も知らぬ場所へ、二人きりで逃亡してしまったら。 この生まれてしまった感情を捨ててしまわずに済むだろうか? ずっと苛んできた色々な雑事を全部……切り捨ててしまえるだろうか? そこまで考えて和泉は全てを否定した。 駄目なのだ。 ここから逃げることなどできるはずもない。 逃げていいはずがない。 「このまま、ライコウに見つかる前に二人で出掛けようか。」 こう言えばきっと、彼女は困惑しながらも駄目だと言ってくれる。 そんな期待を込めた悪戯。 案の定、駄目だと戸惑う様子。 それすらも可愛らしいと思えて、仕方がない。 好きだという想い 恋という感情 愛するということ 幼い頃から目にしてきた幾つもの、そういった感情は、お世辞にも綺麗なものとはいえなかった。 だからこそ、距離を置いて見ていられたのに…… ほんの刹那の戯れなのだと思っていられたのに…… ――あんなことを言うから…… 本当の恋について、とても真剣な目で訴えた初心な少女。 達観していたはずの感情が、騒ぎ出した。 ――責任とって欲しいくらいだよ くいと手を引けば、戸惑うように視線を彷徨わせてしまう可愛らしい少女。 そのくるくると変化する表情が、心をあたたかくしてくれる。 これ以上近づくことが駄目だというなら。 この胸を苦しめる想いが叶わぬものだというなら。 せめて―― この月が照らす今宵だけでも、傍らに…… PR