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よみぢのほだし 小説の部屋

火弟巳生が書いた版権二次創作小説の置き場

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聖なる夜~サンクチュアリ~【遙か1/鷹あか】

夢小説(名前変更あり)で公開していた作品です
もったいないんで、名前固定(あかね)でこちらにも…

聖なる夜~あなたと刻む永遠~」のあかねサイド


 聖なる夜~サンクチュアリ~



 赤や緑で彩られた、クリスマスソングの流れる街。
 去年までは、クリスマスなんて特別な日だとは思ってなかったけれど……

 家族で過ごした、小学生の時のクリスマス。
 友達と騒いだ、中学生の時のクリスマス。
 そして――

 あの、桜が舞い散っていた…運命の日。
 こことは違う、別の世界で…あかねは出会ってしまった。
 離れたくないと…心から惹かれあう人に――

 願いを叶えてくれた白い龍。
 聖なる、冬の夜に祈りを捧げるべき神は…白龍なのかもしれない。
 あの人と出会わせ…一緒にいる幸せを与えてくれた――あかねを神子に選んだ龍神。


「どうしたの?」
 長い黒髪を、肩口からサラリ…と零し、不思議そうに顔を覗き込んできたのは蘭。
 あかねにとって、かけがえのない大切な親友。
 あの世界で対の神子であった…少女。
「――もうすぐクリスマスなんだなぁ~って…」
「一緒に過ごす相手がいる人は大変ね。」
 ちらり…と向ける視線には、からかいの色。
「そういう意味じゃなくて!」
 思わず、顔を真っ赤にして抗議の声をあげる、あかね。
 くすくす、と蘭は笑う。
「じゃあ、何を、そんなに真剣に考え込んでるの?」
「――出会えたことには、ちゃんと感謝しなきゃいけないな…って思って。」
「え?」
 不思議そうに、蘭は親友を振り返る。
「あの人に…だけじゃなくって、向こうにいる皆にも、蘭にも…出会えたのは龍神様のおかげでしょ?だから……」
「だから、祈りを捧げる神様は、龍神様?」
「うん。もう役目も終わったし、こっちの世界じゃ関係ないけど……神子として、それくらいはしなきゃなぁ……って。」
 真剣な表情で語るあかねに、蘭は小さく頷いた。
「クリスマスって、神様に感謝する日だものね……本当は。」


 学校帰りの商店街。
 ふと見上げた街路樹に輝くイルミネーション。
 蘭は、再びこの光景を見ることができたことに…胸の奥が締め付けられるような思いがした。
 ――龍神にではなく、あかねに感謝の祈りを捧げたい……
 そんな風に思ってしまう。
 もう…一人ではない。
 この幸せをくれたのは、隣でいつも笑っている親友。

「でも、そんなことばかり考えてちゃダメよ?」
「え?」
 蘭の言葉に、ふと、あかねは振り返った。
「初めてのクリスマスでしょ?ちゃんと計画は立ててるの?」
 おせっかいかもしれない。
 でも、じれったいと思ってしまう。
「……」
 黙りこんでしまった親友に、意地悪だと思いながらも言葉を重ねる。
「どうしたの?いつもはもっと積極的なのに。」
 普段は、自分をぐいぐい引っ張ってゆく親友は、あの年上の恋人のこととなると大人しくなってしまう。
「あのね……」
 少し躊躇しながら、あかねは蘭へと告げた。
 しばらく前からの悩み事を……







「お兄ちゃん、男の人ってプレゼントに何貰ったら嬉しいの?」
 帰宅した途端の、その問いかけは…天真を驚かせるには十分すぎる言葉だった。
 まさか、この大切な妹にまで恋人ができてしまったのか…
 自分が守るしかない……と思っていた少女が別の男を選んだことに、ようやく心の整理がついたばかりだというのに…次は妹まで!?
 そんな兄の動揺などつゆ知らず。
 蘭は、期待に満ちた瞳で答えを待っている。
「知るか。」
 思わず視線を逸らし、天真は不機嫌そうに答えた。
「意地悪言わないでよ。」
「知らんもんは知らん!」
「お兄ちゃんッ!」
 しつこく追いかけてくる妹を振り向きもせず、天真は部屋へと向かった。
「何怒ってるの!?」
「怒ってない。」
「うそ!絶対怒ってる!!」
「……蘭。」
 足を止めると、追いかけてきていた蘭も立ち止まった。
「なに?」
「お前、誰か好きなやつでもできたのか?」
 呟くように問うと…
「違うよ。」
 言って、蘭は笑い出した。
 兄が何故怒っていたのかに気付いたのだ。
「別に、私がプレゼントするわけじゃないよ。相談されたから、聞いてみたかったの。」
 帰るなり、あんな聞き方をしたのが悪かったとは思う。
「…そっか。」
 苦笑を浮かべ、天真は振り返った。
 さすがに少し恥ずかしい。
「悪かったな。」
「お兄ちゃんってば、早とちり。」
 ひとしきり笑いあって。
 天真は、先ほどの妹の問いへの答えを考えてみた。
「……まあ、あげる相手にもよるだろうな。」
「お兄ちゃんなら、何が欲しい?」
「なんだ?言ったらくれるのか?」
「候補に上げるだけ。」
 言って、蘭は小さく舌を出す。
「なんだよ、それ。」
「値段と、クリスマスまでの、お兄ちゃんの心がけ次第ってこと。」
「……あのな……」
 頭をかいて、天真は溜息をついた。
「――オレだったら、まあ…バイク用の手袋とかだな。そろそろヤバくなってるし。」
「そっか……誰でも欲しがるものってある?」
「また難題をふっかけてきたな…」
 と、もう一度考え込み……そして、ふと気付く。
「ところで、誰に相談されたんだ?」
「それは内緒。」
 曖昧に微笑み、蘭は答えた。





「……というわけで、人によるみたい。」
「そっか……」

 翌日。
 学校で、蘭は親友へリサーチの報告をした。

「詩紋くんも、相手によるって言ってたし……」
 溜息混じりに、蘭は言った。
「そうなると、やっぱり難しいなぁ……」
「直接聞いたら?」
「それで解決すると思う?」
「やっぱり無理?」
「うん。」
 頷いて、あかねは、自分の誕生日の時それとなく問いかけた時の答えを、蘭へ話す。
 ……一緒にいられればそれでいい……と言われたのだと。
「ごちそうさま。」
 真っ赤になるあかねを見て、苦笑を浮かべ、蘭は言った。
「何か、一緒にいたときに気づいたこととかないの?
 例えば…興味を持ってた物とか……」
 問われて、あかねは考え込む。
 ……そういえば……
 ふと、秋に出かけたときのことを思い出した。
「時計……」
「え?」
「どこの商店街の、どの店だったかとかは覚えてないけど……通りすがりの古い時計屋さんにあった懐中時計を『いい雰囲気のものですね』…って」
「それよ!」
 蘭は、ぱんっ!と手を叩いた。
「……でも」
「商店街って、駅前の?」
「ううん。」
 躊躇するあかねに、蘭は店の場所を思い出させようと躍起になる。
「どんな店?」
「覚えてない…」
 諦め顔で、あかねは首を横に振った。
「いいよ。どうせもう残ってないだろうし……もしかしたら、買ってしまった後かも……」
「………私を……」
「え?」
 ふいに両方の肩を掴まれて、あかねが戸惑いながら顔を上げると……
 真剣な顔の蘭が目に飛び込んできた。
「私のことを、闇の中から引っ張りあげてくれたのは誰!?」
「……蘭?」
「一人ぼっちだった私を、光の中に呼び戻してくれたのは、あなたでしょっ!」
「……」
「いつもは前向きなのに、どうして…」
「蘭……」
 自分の肩を掴む蘭の手に触れ、あかねは、その肩に顔を埋めた。
「ゴメン……ありがと。」
 どうして、こんなに臆病になってしまっていたのだろう。
 いつもの自分なら、『時計』に思い当たった時点で、すぐにでも探しに飛び出していたはずだ。
 胸の奥に、小さな不安の芽が生まれていた。
 それが何なのかも分からない……正体の分からない不安が……
「帰りに、探すの手伝ってもらっていい?」
 顔を上げ微笑み、蘭に問う。
「うん。喜んで。」

 大切な親友に、こんなに心配を掛けてしまった。
 自分の問題なのに……迷惑を掛けてしまった。
 申し訳ないという思いでいっぱいになりながら、その反面、蘭が親友でよかったと思う。
 普通に暮らしていたら、こんな心の絆を作り上げられなかっただろう。
 あの世界で、敵同士として出会って……幾度かの心の交流を重ねて……そして生まれた二人の絆。
 対の神子だから…お互いがかけがえのない存在なのだろうか?
 その答えは、永遠に分からないだろう。
 でも、お互いの心が呼び合ったのは事実だ。
 だから、今…こうして親友でいられる。


 毎日、思い当たる商店街を探し回る日が続いた。
 放課後、日が落ちるまでの短い時間だけだから、行ける範囲も限られる。
 でも、二人は、あちらこちらの商店街を渡り歩いていた。


「もういいよ、あとは私一人で探すから。」
 クリスマスを目前にした12月22日。
 今日も二人は、あかねの記憶だけを手掛かりに店を探していた。
 待ち合わせ時間まであと1時間。
 まだ見つからない『時計』に、二人には焦りの色が見えていた。
「でも……」
「大丈夫。きっと見つかるから。」
 微笑み、そう告げるあかねを見つめ…蘭は頷いた。
「分かった。頑張ってね。」
「うん。ありがとう。」
 手を振り、その場で別れを告げる。
 

 待ち合わせの場所からは、何駅か離れていた。
 少なくとも、あと30分で見つけなければ…時間に間に合わない。
「さて、後は、あそこの駅裏だけだ!」
 気合いを入れ、あかねは歩き出す。

 絶対に、待ち合わせ時間までに見つけ出そう……
 これからも、二人の時間を刻んでゆくための『時計』を。
 喜んでもらえるかどうかは、分からない。
 優しいあの人のことだ……逆に、気を使わせてしまうかもしれない。
 時々よぎってしまう思い。
 ……ここしばらく、胸の奥を占拠していた……不安の芽。
 だけど……

『これから先もふたりずっと一緒がいい』

 伝えたい言葉と共に、贈りたいプレゼントだから……




 黄昏色に染まる空。
 輝き始めた一番星に願いをかけた。
 胸に抱えた、小さな包み。
 待ち合わせ場所へ急ぐ足。
 一足早く訪れる……聖なる夜。
 今日は、大切なあの人が生まれた日……だから……
 イルミネーションは、大切な人の生まれた日を祝福するように輝いていた。



おわり

奥井雅美さんの歌「サンクチュアリ」より

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