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よみぢのほだし 小説の部屋

火弟巳生が書いた版権二次創作小説の置き場

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騎士と神官・第0話 決戦前夜<ルナサイド>【スレイヤーズ/ルナゼロ】

騎士と神官シリーズ第0話
決戦前夜<ルナサイド>


 

 カタン…

 

 窓を開くと、少し湿った夜風がカーテンを揺らしながら吹き込んできた。

 

「今夜は少し冷えるわね。」

 部屋の明かりを点けることすらせずに、ルナは、パジャマの上に羽織ったカーディガンの前をかきあわせて、遠い街道の森に目をやる。

 

 今夜は、なぜか寝付かれなかった。

 ――虫の知らせ――  

 とでもいうのだろうか?

 

 ルナは、小さくため息をついた。

 

「なんっか、昼間からおかしな気配がするけど……」

 

 何かが起こる兆しを、そして……何か、決して良くはない存在の気配を感じる。

 ……方向は分かる。

 おそらくは街の外れにあるあの森。

 

 ただ……

 

 『何』なのかが、見当すらつかない。

 けれど、ルナの中にある赤の竜神の能力が、何かを感じ取っている。

 

「………」

 目を閉じ、夜風に身を委ねる。

 

 こうすることで、何か分かるかもしれないと思ったのだ。

 けれど、感じられたのは夜の空気だけ。

 

 ……と、全身の感覚を研ぎ澄ましていたルナの耳に、カタン…というかすかな音が聞こえてきた。

 

「?」

 

 不審に思って視線を移すと、家を出て行く見慣れた姿。

 

 

「――……まったく……」

 ため息をついて、ルナは踵を返した。

 

 

 

 

 

「どこ行くの?」

 

 揺れる黒い長髪に向かって声をかける。

 その声に振り返ったのは、年齢不詳の男。

 火の付いていないタバコをくわえ、一本の釣竿を手にしている。

 

「夜釣りだ。」

 にっ、と笑って簡潔に一言で答えてくる。

「お前こそ、こんな時間まで起きてたのか?

 明日もバイトだろ?」

肩を釣竿でとんとんと叩きながら言う男。

 

「ちょっと寝付けなくてね。」

 肩をすくめて、ルナは応えた。

 

「どうした?」

 さりげなさを装った、心配気な問いかけ。

 

「ちょっとね……

 しばらくは森の方へ行かない方がいいかもよ。」

 男の問いには言葉を濁し、ルナは忠告を口にした。

 

「なんでだ?」

 問い返す男。

 それに、ルナは少し考えてから答えた。

 

「何かおかしな気配がこの辺りを――森の辺りを――包んでるの。

 だから……」

「眠れない理由ってのは『それ』か?」

 男に言われて、ルナは言葉に詰まった。

 そして思う。

 

 ――さすがだと……

 

 観念してルナはため息をついた。

 一人で考え込んでいるよりは、言ってしまうほうが少しは気が楽だろうから。

 

「まあ、ね。

 確実ではないけど、なんとなく分かるのよ……

 あたしがその『何か』に関わるだろうってことが……。」

 

「そんなに気負ってても、疲れるだけじゃないか?

 何かが起こるときは起こるし、起こらないことだってある。

 起こったとしても、実際はお前自身に関係ないかもしれない。

 ――無駄な時間過ごしてる暇があったら、とっとと寝ちまえ。」

 言って、男はルナの頭をぽんぽんっ、と軽く叩いた。

 

「………そうよね。」

 ルナは苦笑を浮かべた。

「ありがと。ちょっとすっきりした。」

「そうか。」

 小さく笑みを浮かべ、男はくるりと踵を返す。

 

「行くの?」

 ルナの問いに、男は答えず手を振った。

 

「一応、気をつけてね。

 おやすみなさい。父さん。」

 

 その背中に、ルナは声をかけた。



第0話ゼロスサイド目次第1話①

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